高砂熱学工業株式会社様 導入事例

SAPによる会計基盤をAzureで構築、SAPの機能とLifeKeeperの連携で可用性を担保

 ビルや工場、施設などの空調設備を手掛ける高砂熱学工業は、2023年に創立100周年を迎える。創業以来の生業である空調設備の設計、施工、メンテナンス等で培った知見を基に、従来の建物空間にとどまらず、カーボンニュートラル技術・サービスを実装し、地球環境全体に貢献する環境クリエイターⓇを目指している。建物に占める空調の消費電力が大きいことから、同社は時代の変化に合わせて省エネルギー技術を磨いてきた。

 創立100周年を迎える同社は、環境クリエイターⓇへのシフトと並行して基幹システムの刷新にも取り組んできた。長年使い続けてきたメインフレームを中心にしたシステムを、2022年度までにMicrosoft Azureを利用したクラウド型のシステムへと移行したのである。新システムでは、会計業務に独SAPのソフトウエアを導入。SAPの可用性を確保するためにサイオステクノロジーのLifeKeeperを採用した。

40年使ったメインフレームのシステムを刷新

 高砂熱学工業の基幹システムは、国内の空調設備工事に特化したシステムとしてメインフレームで構築し、機能を追加拡充、改修しながら40年もの長期間にわたって使い続けてきた。しかし、技術者の高齢化や人材不足などが進み、標準化されたシステムへの移行を進めることになった。基盤としてはMicrosoft AzureをIaaS(Infrastructure as a Service)として利用し、会計情報基盤にはグローバルデファクトスタンダードのSAP S/4HANAを、人事管理クラウドにはSAP SuccessFactorsを採用した。高砂熱学工業 DX推進本部 情報システム部 課長代理の島田健章氏は「会計や人事は標準的なシステムを採用できました。一方で、本業の工事の管理の部分は既存パッケージに適合するものがなく、そこだけはスクラッチで開発することになりました。全体の構成としてはIaaSをオンプレミス的に利用しています」と、新基幹システムを説明する。

 標準的なシステムとしてのSAP製品の導入は、デファクトスタンダードであることが大きな要因だった。コンサルティングはアビームコンサルティングが担当し、「アビームコンサルティングからも提案をもらい、SAPが一番良いと判断して導入しました」(島田氏)。

 従来利用していたメインフレームは、堅牢なシステムであり落ちることが少なかった。半面、冗長構成が取りづらいこともあり、明示的な冗長構成は採用していなかった。しかしAzureのIaaSサービスを利用することになると、その発想を180度変えなければならない。島田氏は、「IaaSは落ちることを前提にシステムを構成する必要があります。冗長構成が必須になり、メインフレームとは大きく異なる構成が求められました」と語る。

 会計で用いるSAP S/4HANAに対しても、冗長構成が不可欠だった。決算に直結するシステムであり、締めの処理の時期には1日の遅れも許されない状況になる。「サービスレベルとして高い要求がありましたので、アビームコンサルティングに相談しました」と島田氏は振り返る。

高砂熱学工業株式会社
DX推進本部 情報システム部 課長代理
島田 健章 氏

アビームコンサルティング株式会社
エンタープライズ トランスフォーメーションBU
宇佐見 啓太 氏

 相談を受けたアビームコンサルティング エンタープライズ トランスフォーメーションBUの宇佐見啓太氏は、「クラウド利用では、落ちることを前提にして、すぐ復旧してビジネスを止めないシステム構成が求められます。Microsoftには単体でSAPの冗長構成を取れる商品がなかったため、Microsoftやシステム導入を担うSCSKにも相談し、サイオステクノロジーのLifeKeeperを選定して提案しました」と語る。 LifeKeeperは、SAPの認定ソリューションであること、停止を回避し万が一の際も短時間で復旧できる機能を備えることが、選定の要因にあった。

データ破壊につながるスプリットブレインを標準機能で回避

 アビームコンサルティングのLifeKeeperの提案に当たって、相談を受けたSCSKでも「過去にSAPの可用性を高めるためのLifeKeeperの導入実績がありました。Azureではない構成でしたが、自信を持ってお受けできました。」(SCSK ソリューション事業グループ マネジメントサービス第一事業本部 産業テクノロジーサービス部 第一課の池田雄介氏)。

SCSK株式会社
ソリューション事業グループ マネジメントサービス第一事業本部 産業テクノロジーサービス部 第一課
池田 雄介 氏

 そうした中で、最も重要視された機能が、クォーラムと呼ぶ機能だったという。「高可用性(HA)クラスターを構成した場合に、稼働系と待機系の連携が取れなくなり双方が稼働系になってしまうスプリットブレインを防がなければなりません。最悪の場合はデータ破壊につながります。LifeKeeperには、双方の監視をするクォーラムサーバーの機能が標準で備わっていたことが評価のポイントになりました」(池田氏)。他のクラスタリングソフトウェアでは、クォーラムサーバーの作り込みが必要で、工数が増えるほか、ミスが生じるリスクがある。クォーラムサーバーの機能がQuorum/Witnessパッケージとして標準で用意されているLifeKeeperが選択の際の大きなポイントだった。高砂熱学工業としても「安心感をもって使える製品」(島田氏)と評価する。

 LifeKeeperを選定して、冗長構成を構築する際に、導入を担当したSCSKとしても経験のない構成に出会うことになった。LifeKeeperで冗長構成を取る場合に、一般的には共有ディスクを用いるか、同じくサイオステクノロジーのデータレプリケーションソフトのDataKeeperでディスク冗長化をする。しかし、今回のAzure上でのSAP S/4HANAとLifeKeeperの連携では、SAP S/4HANAが持つレプリケーション機能のHSR(HANA System Replication)を用いることになった。SCSK 産業テクノロジーサービス部 第一課の岩城良治氏は「本環境ではSAP HANAのレプリケーション機能でデータの冗長化を行い、SAP S/4HANA自体の冗長化はLifeKeeperの『SAP HANA Application Recovery Kit』を用いて対応することになりました。共有ディスクやDataKeeperを使わずに冗長構成を取れるLifeKeeperの多様性を改めて感じました」と語る。

 構築時には、サイオステクノロジーとの緊密な連携も役立った。「Azure ILBを利用してSAP S/4HANAへの外部からのアクセス制御を冗長化する際に、LifeKeeperの『GenLB』というApplication Recovery Kit(ARK)を利用しました。SCSKでは設定の経験がなかったため、サイオステクノロジーに問い合わせをして、迅速な回答をもらったことでスムーズに設定ができました」(岩城氏)。

Azureが停止した際もサービスは提供を継続

 新基幹システムは、2022年4月に稼働を始めることができた。島田氏は「スケジュール通りに構築から稼働を進めることができました」と語る。稼働後に、Azureが停止したことが1回あったというが、「スムーズに稼働系から待機系に切り替わって、ユーザーレベルでのサービスは提供したままで利用できました。Azureは現実問題として落ちることがありますからそこに文句を言うのではなく、LifeKeeperを使って可用性を保てることが重要です。1回落ちた際も、アラート通知で把握しましたが、サービスダウンがなかったことからアラート通知のみで『落ちた』と知ったような状況でした」と続ける。

 アビームコンサルティングの宇佐見氏も「SAPの保守を継続して続けていますが、LifeKeeperと連携して問題なく動作しています。基盤に近いソリューションは想定通りに稼働していると目立たなくなります。今回も目立たないからこそ、うまく動いているのだと思います」と現状を評価する。

 構築に携わったSCSKでは、「Azureとの組み合わせでは初めての構築でしたが、想定通りの動作を実現できました。製品として信用できることを改めて感じました」(岩城氏)。また池田氏は「様々なクラスターウエアを触る中でも、LifeKeeperのGUIは稼働系と待機系の判別やリソースの動作状況がわかりやすく、ユーザービリティが高いことを実感しています」と語る。

SCSK株式会社
産業テクノロジーサービス部 第一課
岩城 良治 氏

 島田氏はSAPとLifeKeeperの連携による冗長構成を総括して、「IaaSという不安定な基盤の上で、SAPのような基幹システムの安定稼働を求めるときに、LifeKeeperはなくてはならない存在だと稼働後に再認識しています。安定稼働を実現できていて感謝しています」とする。

一方で、島田氏はLifeKeeperに要望もあるという。「なるべく標準的な機能を1つのベンダーのサービスとして利用したいと考えています。今回ではAzureを提供するMicrosoftのサービスで固めたいのです。LifeKeeperがAzure上のサービスとして展開され、Microsoftがワンストップで運用保守まで窓口になってくれると、個別の導入や運用の手間から解放されます」(島田氏)。クラウド化を推進する中で、LifeKeeperなどのサイオステクノロジーの機能をクラウドサービスとして利用したいという要望だ。

 高砂熱学工業では、基幹システムの刷新を終えて、次の手にコマを進める。「ITと空調制御の仕組みは、これまで異なる歴史を歩んできました。これらをいかにうまく融合させながら全体としてシステム化するかが課題です。IoT、AIを活用して、サービスとして定着させていくことが直近の現業のデジタル化に求められています」(島田氏)。

 一方で中長期の視点では、宇宙への夢を拡げる。島田氏は「宇宙空間で活用できる技術開発に手をつけ始めたところです。宇宙で生活するには空調は必須です。建設業はデジタル化が遅れていると言われていますが、逆にデジタルトランスフォーメーションをうまくできる可能性もあります。どんな施策を打つことが宇宙を含めた空調のデジタル化に必要なのかを考えていきたいと思います」と語る。100周年で大幅に刷新した基幹システム、その中でも安定稼働を支えるSAPとLifeKeeperの連携が、宇宙に向けた技術開発、ひいては同社の目指す環境クリエイターⓇへのシフトを支えていくことになる。

注)組織名、役職名は2023年3月時点のものです

【システム構成イメージ図】

sap-s4hana-ha-cluster_r2.png

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高砂熱学工業株式会社様

業種 その他
導入環境 クラウド
導入システム 会計システム
所在地
東京都新宿区新宿6丁目27番30号
設立日
1923年(大正12年)11月16日
従業員数
2,131名(2022年3月末 単体)
ホームページ
https://www.tte-net.com/