住友商事株式会社様 導入事例
基幹を担うデータ連携基盤をクラウド化、シビアな環境の可用性を確保するには
社内のデータ連携基盤をクラウド化した住友商事。“一日たりとも止まってもらっては困るシステム”の可用性担保にアプリケーションレベルで対応できるソリューションを探した結果、ある製品に白羽の矢が立った。そのソリューションは予想通りに機能し、“安心できる保険”として適切な評価を受けている。
クラウドシフトの潮流で基幹のデータ連携基盤を更新
持たざるITへのシフト。そうした潮流の中で、住友商事はEAI(Enterprise Application Integration)と呼ぶデータ連携基盤をクラウドに移行した。同社 IT企画推進部 インフラシステム第二チームリーダーを務める八百枝玄士氏は、「全社的に、クラウドに移行できるものはシフトしていこうという流れがありました。技術革新やセキュリティ対策へのキャッチアップを考えると、クラウド化は避けられないものでした」と語る。2017~18年ごろからいわゆるクラウド化が社内システムで進み始めていた。
そうした中で、EAIにも変化のときが迫ってきていた。EAIのシステムで従来利用していたHP-UX搭載のハードウエアは2020年3月に保守期限が到来、またEAIのミドルウエアとして利用していたSAP NetWeaver PIも、2020年末にはライフサイクルが切れる。システム更新の企画を始めた2018年初冬には、「次の選択肢はクラウド」という流れができあがっていた。ミドルウエアのバージョンアップに合わせて、基盤もクラウド化する方向でEAIの更新の企画が進んだ。
ここで課題になったのが「可用性」だった。EAIは、住友商事のITシステムの中でも基幹に位置づけられるシステムの1つ。同社には100を超えるシステムがあり、EAIをハブとして異なるシステムで共有したいデータを受け渡している。
「ビジネス活動に大きな支障があるため、一日たりとも止まってもらっては困るシステム」と八百枝氏は語る。
住友商事のEAIシステムに20年近く関わってきたSCSK ITマネジメント事業部門で課長を務める唐﨑弘文氏は「その時点でクラスタとして組める最速の時間でリカバリーできることが求められます。具体的には、1時間以内にリカバリーできることが必要というレベルです」と説明する。クラウドへの移行後も、これまでと同等以上の可用性が求められる。実現手法の検討が始まった。
条件に合致するソリューションとして残ったのは「LifeKeeper」だけ
従来のEAIシステムは、HP ServiceGuardを利用してハードウエア的なActive-Active構成でクラスタを組んでいた。一方、更新後のシステムでは、住友商事のグループ会社であり同社のシステムインテグレーションも担うSCSKが提供するプライベートクラウドサービスのUSiZEシェアードモデルを採用。ソフトウエアにはSAP NetWeaver 7.5を採用することになった。
データ連携基盤、EAI(Enterprise Application Integration)の概要
USiZE、SAP双方に対応した可用性ソリューションには何があるのか。その上、Active-Standby構成ではなく、Active-Active構成(双方向スタンバイ構成)が求められる。さらに、クラウド化で共有ストレージが使えなくなり、データレプリケーションに対応できるソリューションとなると何があるだろうか。
住友商事では、可用性の要件をSCSKに提示した。クラウドサービス自身が一定レベルの可用性を提供しているものの、アプリケーションレベルの可用性を維持することを考えると、何らかのクラスタソリューションが必要になるためだ。
SCSKでEAIシステム更新のプロジェクトマネージャーを務めたITマネジメント事業部門の酒井省一氏は、「これらの条件に合致してSCSKが提示できるソリューションは、サイオステクノロジーのLifeKeeperしかありませんでした」と当時を振り返る。Active-Active構成で冗長化できるクラスタソリューションそのものが少なく、LifeKeeperに絞られた。
SCSKでLifeKeeperを担当するITマネジメント事業部門の池田雄介氏も「サイオステクノロジーがSAPに対応できる製品を開発していたため、今回の条件に合致しました。一方で、SCSKとしてはSAPとLifeKeeperとの連携のインテグレーションの実績がなかったため、チャレンジングな取り組みだったことも事実です」と語る。
SCSKからEAIへのLifeKeeper導入の提案を受けた八百枝氏は、「エンドユーザーの住友商事からすると、クラスタソリューションには要件はあっても、見栄えや利便性への要求はありません。信頼しているパートナーであるSCSKが推奨してくるソリューションに反対する理由もありませんし、反対して時間がかかるのは無駄です。きっちり可用性が担保できるなら、この方向で行きましょうとお互いに覚悟を決めました」という。
SCSKが住友商事に提案した時点で、要件に対する調査はしっかりと行われていた。「SCSKとしてSAP対応が初物というリスクはありましたが、サイオステクノロジーの技術力や採用実績は知っていましたし、他社ではSAP対応の実績もありました。本当にいいものであれば、積極的に採用するという住友商事の文化もあり、採用に躊躇はありませんでした」(八百枝氏)。
Active-Standby構成をたすき掛けで冗長性を確保
住友商事のEAIシステムの可用性を、LifeKeeperで担保するための仕組みは、以下のようになった。SAPが稼働する2つのインスタンス(SCSKのUSiZEシェアードサービスが提供するインスタンス)に対して、LifeKeeperを2組利用してActive-Standby構成をたすき掛けにする。さらに2つのインスタンスの間にデータレプリケーション機能を適用することで、共有ストレージの代替とする。これにより、2つのインスタンスをいずれもActiveにしておいて、データを常時レプリケーションしながら、万が一のときには自動的にリカバリーができる構成だ。
EAIシステムのクラスタ構成
実装では、サイオステクノロジーが提供するApplication Recovery Kit(ARK)という、動作を規定するスクリプトが役立った。SCSKの酒井氏は「一般的なクラスタソリューションでは、停止や起動の動作を決めるスクリプトを独自に作らなければなりません。しかしLifeKeeperにはSAPなどに対応したスクリプトをARKという製品として用意しているため、生産性や品質、コストの面でも有効でした」と語る。導入時だけでなく、運用フェーズに入ってから、手組みのスクリプトではなくサイオステクノロジーが提供する製品として品質が担保されているARKを使えることは、信頼感があると感じている。
移行前にテストをして、問題なく自動的にリカバリーできることも確認した。LifeKeeperによるクラスタソリューションは、2019年11月から移行を開始して、住友商事のEAIシステムと連携して稼働したのは2020年2月のこと。その後の状況について八百枝氏は、「特に問題ないとしか言いようがありません。幸い、リカバリーが必要な事態に陥っていないのです。LifeKeeperの出番がないことはITシステムにとっていいことだと思います」と笑う。アプリケーションはよほどのことがないと不安定になることはないが、万が一のことが起きても大丈夫だという安心感を持っていることが、LifeKeeperの導入効果だというのだ。
生命保険や弁護士の顧問契約のような存在
もちろん、LifeKeeperの稼働までに、まったく問題がなかったというわけではない。SCSKの池田氏は「今回はActive-Active構成に仕立てる必要があったのですが、LifeKeeperのGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)の中に、Active-Active構成では2つ指定したいパスの項目が1つしかないということがありました。こうした細かい点は、サイオステクノロジーに依頼してすぐに製品改修をしてもらうことでクリアできました」という。国内で開発するサイオステクノロジーならではの迅速対応のエピソードである。
実際に、住友商事のEAIシステムではLifeKeeperを導入したシステム更新以降に、目立ったトラブルが起こっていないため、直接的な「導入効果」を測ることができていない。では投資に見合った効果が得られていると感じているのだろうか。
八百枝氏はこう語る。「クラスタソリューションは、生命保険のようなものでもあり、企業が契約する顧問弁護士のようなものでもあると思っています。何かがあったときに役に立って良かったという性格のソリューションでしょう。普段は安心感を持って業務ができていて、万が一EAIシステムが止まったときにIT部門や会社への業務への影響、元の状況に戻すための時間などを考慮した場合に、十分なパフォーマンスを発揮しているソリューションだと感じています」。
八百枝氏の下でEAIシステムを含むシステム運用管理に携わるインフラシステム第二チームの福村 陸氏は、今回のシステム更新に直面して「運用管理業務に就いてからの経験がまだ少ないのですが、クラスタ構成の必要性を直接感じることができて勉強になりました」と語る。企業内のシステムのうちで、どのようなシステムには高い可用性が必要であるのか、どのように可用性の担保を実現していくのか、住友商事としての「共通言語」を学ぶことで経験値を得たようだ。
八百枝氏は続ける。「企業にとってのITシステムは、電気・ガス・水道と同じく止まったら生きていけないインフラという領域に入ってきています。そうした基幹インフラは、冗長化する、可用性をもたせるということが、重要なファクターだと思います。EAIシステムは、電気・ガス・水道と同じような基幹インフラなので、止まったら困るから投資をすることは当然の判断です」。今回のEAIシステムへのLifeKeeperの導入は、企業のインフラの1つであるITシステムに対する可用性の考え方を若手社員にもきちんと伝えるための体験学習にもなっている。
八百枝氏は最後にこう語った。
「ITシステムには100%はありません。似たような位置づけのシステムをクラウド化することになったら、同じ組み合わせでLifeKeeperを使っていくことをまず考えるでしょう。保険として適切なソリューションだと信頼しています」。
住友商事株式会社様
業種 | 卸売業 |
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導入環境 | クラウド |
導入システム | データ連携基盤 |
- 所在地
- 東京都千代田区大手町二丁目3番2号 大手町プレイス イーストタワー
- 設立日
- 1919年12月24日(2020年9月30日現在
- 従業員数
- 5,455*人(連結ベース72,823人)* 海外支店・事務所が雇用する従業員167人を含みます(2020年9月30日現在)