株式会社JSOL様 導入事例
RISE with SAPによるERPクラウド化プロジェクト、周辺システムの可用性をLifeKeeperで実現
ERPのクラウド化に伴う周辺システムの可用性に課題
NTTデータおよび日本総合研究所のグループ企業であるJSOL。金融・公共・産業といった幅広いフィールドにソリューションを提供し続け、グループシナジーを発揮しながら独自の発展を遂げている。今回は、昨今急増しているERP(統合基幹業務システム)クラウド化に関する可用性を実現したクラスターソフトのユースケースを紹介したい。
ある企業では、基幹システムとして利用していたSAP社のERPシステムをオンプレミスからクラウド化するプロジェクトを進めていた。SAP S/4HANA システムをクラウドで運用するSAPのサービスである「RISE with SAP」を利用して、クラウド化を実現するものだ。この企業では、従来からBCP(事業継続計画)も含めた可用性対応として、RPO(目標復旧時点)とRTO(目標復旧時間)を定めて高可用性構成を採用していた。有事に業務を速やかに回復できる構成が必要なため、RISE with SAPへの移行後も、同様の可用性が求められていた。
RISE with SAPはクラウドサービスとして提供されていて、可用性についてもサービスレベルのメニューから選択すれば要件を達成できる。SAPの基盤構築や運用に関わってきたJSOLのアソシエイトマネジャーの陣在雄貴氏は「一般論として、RISE with SAPへの移行に伴い、SAPの周辺システムの可用性を別途検討する必要が出てきます。SAPのレイヤーの可用性だけが高くても、周辺のシステムの可用性が低ければ復旧までの時間などは低い方のシステムの制約を受けてしまうからです」と語る。
JSOLは、この企業のRISE with SAPへの移行プロジェクトを請け負っていた。この企業ではタイムリーな出荷が求められる製品も製造しており、基幹システムが止まると商品の受注出荷が止まる。半日といった期間のシステム停止は大きな問題になることから、周辺システムについてもRPOやRTOを厳しく設定した可用性の担保が求められ、JSOLに対して提案を要求していた。
マルチAZ対応やサポート体制が要件
この企業では、RISE with SAPへの移行にあたり、周辺システムも含めた可用性についていくつかの要件を設定していた。周辺システムとしては、日立製作所の統合システム運用管理「JP1」、セゾンテクノロジーのファイル連携、データ連携ツール「HULFT」を利用する。これらのシステムをパブリッククラウドで運用する上で、設定したRPO、RTOで復旧できる可用性が求められた。
JSOLのITプロフェッショナルの北見佳史氏はこう語る。「RISE with SAPのサービスは、24時間365日、グローバルでSAPの担当者が監視・運用しており、トラブル発生時にはすぐに復旧にあたります。一方で企業が自社で契約したパブリッククラウド上に構築したシステムは、ハードウェアのレベルではクラウドの機能として自動で再起動がかかりますが、その上に構築したソフトウェアなどに対しては可用性を担保してくれません。そのため、トラブル発生時でもシステムを迅速に利用できる状態にしたいというお客さまには、クラスターソフトウエアなどを導入することで、自動的に迅速な復旧ができる環境を整える必要があります」。今回の企業の場合は、JP1とHULFTについてクラスターソフトで可用性を実現することにした。
その上で要件として、クラウド特有のHA(高可用性)対策手法の1つであるマルチAZ(アベイラビリティゾーン)への対応が求められた。AZとは、物理的なデータセンターを束ねたもの。AZごとに独立して電源やネットワークを運用しているため、マルチAZにすることでシングルAZよりも可用性が高められる。
この企業ではRISE with SAPをマルチAZ環境で運用することにしていたため、JP1とHULFTについてもパブリッククラウド上でマルチAZ構成を実現することが要件だった。「パブリッククラウド上でAZをまたがってクラスター構成を採ることがクラウド側の標準サービスではできず、マルチAZに対応したクラスターソフトが必要でした」(陣在氏)。
JSOLでは、顧客企業の要望に見合うようなクラスターソフトの検討に入った。いくつかのクラスターソフトを比較検討する中で、これまでもオンプレミスのSAPシステムなどで導入実績があったサイオステクノロジーのLifeKeeperが候補に上った。
陣在氏は、「マルチAZへの対応が可能であることは、顧客企業の要望に沿うために不可欠な要件でした。また、JP1とHULFTに対するクラスターソフト側からのサポート体制も確認しました。調べた他のクラスターソフトはソフトウェアに対するサポートは自己責任ということが多いのですが、LifeKeeperは多くのソフトウェアベンダーと共同開発することでサポート体制を構築しています。JP1もHULFTもサポート対象であることを確認し、LifeKeeperの採用を推進することにしました」と語る。PacemakerのようなOSS(オープンソースソフトウェア)のクラスターソフトを駆使する方法もある中で、連携するソフトウェアのサポートの観点からもLifeKeeperに軍配が上がった形だ。
サポートに対しては、北見氏も「クラスタソフトでサポートされていない製品を保護する場合、クラスタ制御用スクリプトの個別開発が必要です。導入時は、開発した後にしっかり検証を行い、要件を満たすことを確認できます。しかし、運用フェーズに入ると、導入したメンバーがいない状況で運用することもあります。そのような体制で、個別開発した部分でトラブルが起こると、復旧や課題解決に時間がかかることが多いです。クラスタ制御用スクリプトも含めて製品ごとにサポートしていただけるという点は、運用観点では非常に重要なポイントです。」と指摘する。
LifeKeeperには、多くのクラスターソフトで必要とされる「制御スクリプトの作成」をせずにクラスター環境の構築が可能なスクリプト集の「ARK(Application Recovery Kits)」がソフトウェアごとに提供されている。JP1、HULFTに対してはともにサイオステクノロジーが製品としてARKを提供していて、過去の実績で培った知見を生かした構築・運用が可能になる。「この企業でも、安全を購入するという視点からARKを利用することにしました」(陣在氏)。また、陣在氏は「LifeKeeperはGUIが見やすいことも実際に運用する上での利点だと感じています」と、LifeKeeperの選定のポイントを振り返る。
【システム構成例のイメージ図】
クラウドのトラブル時にも想定通りに稼働
この企業のRISE with SAPへの移行プロジェクトでは、LifeKeeperを用いて周辺システムの可用性を実現することになった。導入時点でも大きなトラブルなどはなく、LifeKeeperによるJP1とHULFTの可用性を実現することができた。チューニングが必要な場面ではサイオステクノロジーとも連携しながら、調整を重ねることができたという。
稼働後の状況は順調だ。陣在氏は、「テストをしてから納入しているので、想定通り動くことは確認できています。それでも実際に本番環境でどのように動くかは心配なものですが、導入稼働後に利用しているパブリッククラウドで一時的な障害が起きたことがあり、その際には設計通りにLifeKeeperが稼働してクラスターを切り替えることができました。パブリッククラウドを使うとなると、年に数回など何かしらのトラブルが起きることがあります。LifeKeeperを導入したことで、高いレベルでの復旧が可能であることを実証しています」と語る。
そうした効果を見据えた上で、北見氏はクラスターソフトの提案の必要性について続ける。「少し前ならばSAPのシステムにLifeKeeperを入れて可用性を高める選択肢も大きなものでした。ところが今はSAP自身がクラウドサービスとして、SAP S/4HANAをサービス提供しており、グローバルの運用体制で24時間365日、安定した運用が可能となっています。
JSOLとしてもSAPシステムそのものにLifeKeeperを適用するケースは少なくなっていくと予想しています。一方で、企業の業務はSAPシステム単体で完結することは少なく、企業が持つ様々なシステムと連携しています。統合的なシステム間連携や運用管理を見据えたときには、ジョブ管理システムやEAIシステムも含めたシステム全体の可用性を今一度検討していただく必要があると思います。様々なシステム障害に対し、数時間のダウンタイムが許容できない企業には、この企業が導入したようにLifeKeeperを使った周辺システムのクラスター構成を提案すべきだと考えています」。
DRやBCPに関してはこれからさらに高い意識が求められるようになりそうだ。地震や水害、火災などの災害が頻発するだけでなく、例えばランサムウェアなどによる攻撃に対してデータを守る必要性が高まってきているからだ。「万が一、ランサムウェアなどの被害に遭った場合でも、LifeKeeperとバックアップサービスを組み合わせたリカバリー対策の価値が今後さらに高まっていくのではないでしょうか」(北見氏)。
環境変化に備える側面からも、パブリッククラウドを使いながら高い可用性を求める企業などが増加する傾向があると見る。そこでの対応として北見氏は、「高い可用性を求めるお客様に対しては、LifeKeeperをご提案し、導入したいと考えています。そこでサイオステクノロジーと2024年3月に販売代理店契約を結び、さらなる連携強化を図っていきます」は説明する。クラスターソフトのユースケースとして紹介したプロジェクトのように、RISE with SAPでERPをクラウド化すると同時に、周辺システムの可用性を実現するためにLifeKeeperが貢献するといったケースがまだまだ増えるという見方だ。
「LifeKeeperの製品に関しては、顧客に提案の機会を作って販売していくだけでなく、さまざまな検証も進めていきたいと考えています。JSOLの社内でも、私たちSAPの部隊だけでなく他のソリューションを提供する部隊もありますし、幅広い業種のミッションクリティカルなシステムの可用性の実現に、LifeKeeperを活用して貢献していきたいです」と、北見氏はサイオステクノロジーとの連携についての今後の方向性を語った。
株式会社JSOL様
業種 | 情報通信業 |
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導入環境 | クラウド |