iBankマーケティング株式会社様 導入事例
ネオバンクサービス「Wallet+」の好調でオンプレのインフラが悲鳴
AWS移行に伴い金融機関との連携アプリの冗長化を実現
金融と非金融を融合させ「お金と触れ合う体験」を創出
福岡を拠点に、金融と非金融を融合した「ネオバンク」として革新を続けるiBankマーケティング。
同社は2023年、急成長するサービス基盤の再構築に着手し、オンプレミスからAWSへの移行と同時に、サイオステクノロジー(以下、サイオス)のHAクラスターソフト「LifeKeeper」とデータレプリケーションソフトの「DataKeeper」を導入して高可用性と柔軟性を両立させた。
iBankマーケティングは、福岡銀行を中心とする九州を地盤とする銀行からなる「ふくおかフィナンシャルグループ」の戦略子会社として2016年に設立された。同社 ICT事業部、シニアマネージャーの川口陽平氏は「銀行のグループ会社でありながら、完全に分離した出島のような組織です。銀行法の制約を受けずに、スピード感や機動力を生かした事業展開ができる強みがあります。組織的にも、銀行からの出向者に加えて、データサイエンティストやデザイナー、マーケターなどをキャリア採用してハイブリッドな人材で業務を進めています」と説明する。
iBankマーケティングは、現在4つの事業を展開している。
1つ目がアプリ事業で、金融機能と非金融機能を融合させたスマートフォンアプリ「Wallet+」の提供を手掛ける。すでに11の地方銀行が採用し、300万を超えるダウンロードを記録した人気アプリになっている。ユーザーは銀行の店舗にあまり足を運ばない20代から40代の若年層が中心。銀行口座を登録することによる「資金の見える化」、目的と金額を決めて楽しく貯蓄できる「目的預金」、「myCoin」と呼ぶポイントの蓄積やクーポン配信などの機能を備える。
「Wallet+では、日常的な金融・蛇行的な消費行動を捉え、ハイパーパーソナライズ化により、ユーザーの行動特性に添った消費および金融取引をアシストしています。」と川口氏は語る。
スマートフォンアプリ「Wallet+」
急成長にインフラが対応できずAWSに移行、可用性の担保を検討
ICT事業部シニアマネージャー
川口 陽平氏
金融と非金融の垣根を超えた多様な事業を展開するiBankマーケティングにとって、システムインフラは事業を支える柱でありながら、弱点にもなるものだった。2016年にWallet+のサービスを開始して以来、「ありがたいことに想定を上回るペースでユーザーが増えて事業が急速に拡大しました。情報インフラはオンプレミスで構築していたもので、成長スピードに追いつくことが難しく、文字通り嬉しい悲鳴を挙げていました」と川口氏は当時を振り返る。
Wallet+は金融系アプリの例に漏れず、例えば給料日の特定の時間帯に口座を確認したり、送金したりという利用が集中する。オンプレミスのシステムでは、アクセスが急増したタイミングに合わせてサーバーをクイックに増強することは難しい。安定的なサービスを提供しにくくなっていた。
ICT事業部マネージャーの荒牧将敬氏は、「そうした中でスケーラビリティを確保できるように、2022年10月からAWSへの移行プロジェクトが始まりました」と語る。機能の拡充、お客様に対応するスピーディーな機能開発も含めて、オンプレミスのシステムからAWSに移行することを決定したのだ。AWSの利用に際しては、可用性の観点からマルチAZ構成を採用することにした。そうした中で1つ可用性の担保の面から懸念があったのが、データ連携に利用しているセゾンテクノロジーのファイル転送ミドルウエア「HULFT」だった。
「Wallet+は多くの銀行に利用してもらっています。myCoinの獲得、交換などの情報は銀行との間で取引結果を元にしたデータを連携することで実現しています。HULFTはそのデータ連携に用いていて、サービスの心臓部とも言える重要なコンポーネントです」(荒牧氏)。だからこそエラーが発生せず、落ちないことが前提で稼働している必要がある。AWSに移行することで、マルチAZ構成によりインフラ回りの可用性は担保できるとしても、アプリケーションであるHULFTの可用性をどのように担保するかが課題になった。
ICT事業部マネージャー
荒牧 将敬氏
高可用性ソリューションの検討で実績ある
サイオステクノロジーを選定
2023年になって、AWS上で動くHULFTの可用性を担保するためのソリューションを具体的に検討し始めた。荒牧氏は、「当初はAWSのネイティブサービスで可用性を実現することを検討しました。しかし、AWSのサービスだけで要件を満たすには、複数のサービスを使った複雑な構成になることがわかりました」と語る。
そこで、他のソリューションについて検討対象を広げた。その中で有力な選択肢として浮上したのが、サイオスの製品だった。川口氏は、「AWS公式ブログでサイオス製品が紹介されているのを見つけ、AWS自身が認めるサードパーティー製品として、まず高い信頼性を感じました。」と当時を振り返る。
「調査を進めると、サイオスのLifeKeeperは国内の金融機関に豊富な導入実績があることがわかりました。金融サービスとして高い可用性を求めていくとき、金融機関の導入実績は何よりの証明になると思いました。また実際にサイオスに話を聞いたところ、AWSでは複雑な構成になるHULFTの可用性の担保を、LifeKeeperとDataKeeperを導入するだけのシンプルな構成で実現できることがわかりました。アプリケーションを意識することなく、シンプルに冗長化できる理想の形を実現できるソリューションでした」(荒牧氏)
そうした経緯からiBankマーケティングは2023年春にサイオスのLifeKeeperとDataKeeperの導入を決定し、同年9月にはAWSへの移行とHULFTの冗長化を実現した。
導入決定から稼働まで、サーバーの切り替えについては基本的には大きなトラブルはなく進んでいった。そうした中で、1つだけトラブルらしいトラブルがあったと荒牧氏は振り返る。「主系と副系の間で、ルート情報をどう設定するかが課題でした。主系が落ちたときに、ルート情報を記載したルートテーブルを切り替える必要があるのですが、既存のルート情報を記述してもうまく切り替わりませんでした。そこでサイオスのサポートに問い合わせてルート情報の記述の仕方を教えてもらい、解決に至りました」(荒牧氏)。サイオスのサポートについて、迅速で手厚い対応だったことをこのときに強く感じたと荒牧氏は語る。
想定外の事態でも影響はゼロ。
設計通りの完璧なフェイルオーバー。
2023年9月の本番環境への移行から、実はAWS側の瞬断などによりHULFTがLifeKeeperによってフェイルオーバーした実績が複数回あったという。「当初の設計通り、HULFTのファイル連携機能が、主系から副系へ問題なく移行できています。実際のインシデントの対応に問題がないことから、LifeKeeperとDataKeeperのサービスに対して高い評価をしています」(荒牧氏)。連携する金融機関にはHULFTのダウンを意識させることなく、サービスを継続できていることが、すべての評価の源になる。
川口氏は、「オンプレミス時はHULFTが止まることはなく、AWS移行後もそれほど止まることを想定していませんでした。ところが、実際に移行してみると複数回のインシデントでフェイルオーバーが起こっています。LifeKeeperとDataKeeperのおかけでお客様への影響を完全に回避し、サービスレベルを一切落とすことなく安定稼働を継続できています。導入して本当に良かったと心から感じています」と、その効果を語る。
アプリケーションをLifeKeeperでフェイルオーバーする際に、DataKeeperでデータを主系から副系に同期しておく構成を採る。荒牧氏は、「AZ間で共有ストレージが使えない中で、DataKeeperでデータ同期ができることで、問題なく切り替えが行えています」と付け加える。
図2 : HAクラスター(LifeKeeper)の構成図
AWS+LifeKeeperによるシステムの柔軟性や信頼性を評価
実運用で金融機関に向けたサービスの提供を高い可用性で実現することに役立っているLifeKeeperとDataKeeper。その導入から運用について、サイオスの対応への評価も高い。荒牧氏は、「困ったときには迅速に対応してもらえました。それだけでなく、AWSの関連サービスは外資系ベンダーが提供することが少なくないため、日本語で手厚いサポートを受けることが難しいこともあります。日本法人があっても、詳細な内容は英語でやり取りということもある中で、サイオスは日本語で完全にサポートしてもらえる点がありがたいです」と話す。
HULFTの可用性をLifeKeeperとDataKeeperで担保しながら、Wallet+のシステムをAWSに移行した効果そのものはどうか。川口氏は、「オンライン取引という意味では金融系アプリには利用に大きな波があります。給料日やいわゆる五十日(ごとうび)、ボーナス時期などはトランザクション量が跳ね上がります。個人向けの少額送金サービス『ことら送金』を導入したことで、仕送りなどを振込の代わりに送金する利用が増え、給料日やボーナス支給日の0時きっかりにトランザクションが跳ね上がり、オンプレミス時代には対応ができませんでした。AWSに移行したことで、柔軟にシステムを構成できるようになり、こうした利用の急増にも対応できています」とそもそもの課題が解決できていることを語る。
AWS移行で、信頼性と拡張性の高いインフラを手に入れたiBankマーケティングでは、さらに次の一手も検討している。荒牧氏は、「金融と非金融をまたがるサービス拡充と追加機能の開発を続けていきたいと思っています。その中でAWSを活用するため、PoC(概念実証)の環境を整えているところです」と語る。
「新機能や新サービスの提供でも高い可用性が求められるシステムに対しては、今回のWallet+の実績を踏まえて、LifeKeeperを積極的に活用していきたいと思います。これからもサービス構築時にはサイオスに相談させてもらい、良きパートナーとしてビジネスを支えてもらいたいと考えています」と川口氏。iBankマーケティングにとってサイオスが継続的に技術支援を求める相手になっていきそうだ。
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iBankマーケティング株式会社様
業種 | 金融・保険業 |
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導入環境 | クラウド(AWS) |
導入システム | 金融機関連携システム |