株式会社日立製作所様(某大手保険会社) 導入事例

基幹業務システムをAzureにクラウドリフト、可用性確保の課題に取り組む

 大手保険会社のA社は、「チャネルシステム」と呼ぶ業務システムのクラウドリフトを実施した。このシステムには、保険会社の内勤者やコールセンターなどが使う社内向けシステムと、保険販売を担う販売代理店が使う代理店システムが含まれている。保険契約者が直接触れるシステムではないが、保険の販売や事務作業にかかわる基幹業務システムに位置づけられており、システムが止まったときの影響が大きいことは想像に難くない。

 A社のチャネルシステムは、日立製作所が提供する、オンプレミスの仮想化基盤で運用していた。いわゆるプライベートクラウドの形態である。そうした中で、ハードウェアの老朽化や採用しているミドルウェアがサポート終了を迎えることをきっかけにランニングコスト削減を目的にした基盤更新のプロジェクトを開始した。システムをパブリッククラウドにリフトするプロジェクトである。

Windowsと親和性が高いAzureで可用性を確保

 A社のチャネルシステムは、システムのアーキテクチャーの中でWindows系のソフトが占める割合が大きいA社のプロジェクトでシステム構築を担った日立製作所のSEの西野卓朗氏は、「Windows系が中心のシステムアーキテクチャとMicrosoft Azureの間で機能的な親和性が高かったことと、目的にしていたコスト削減で最も効果が大きいと想定されたことから、Azureを採用することになりました。クラウドリフトの潮流は変えられないものがあり、お客様の要望に応えることを第一にプロジェクト推進に注力しました」と語る。

株式会社日立製作所
西野 卓朗 氏

 A社からのシステム要件として「クラスター構成を組むこと」という項目があった。
データベースに関してはDBMSの機能でクラスタリングをしていたが、ジョブ管理ミドルウェアのJP1をクラスタリングする要件をどうしても落とせなかった。
基幹業務システムであるだけに、クラウドリフト後も従来に近い可用性を確保する必要があったためだ。既存システムでは、Windows Serverの機能で高可用性(HA)クラスターを構成するWSFCWindows Server Failover Clustering)を利用していた。共有ディスクを利用して、クラスターシステム上でデータの整合性を確保する構成である。

 ところが、2019年の段階では、Azureに共有ディスク機能が用意されていなかった。クラスター構成を実現するHAソフトを変更するという選択肢も検討には上ったが、「システムへの影響を考慮し、アプリケーションやインフラのアーキテクチャーを可能な限り維持したままクラウドリフトすることが優先されました。」(西野氏)というように、改修のリスクを抑えることも要求された。日立製作所は、HAソフトは変更せずにWSFCによるクラスター構成を維持しながら、共有ディスクに代わるデータの共有方法を探すことになった。

 調べたところ、Azure上でWSFCによるクラスターを構築できるデータのレプリケーションソフトとして、サイオステクノロジーの「DataKeeper」が見つかった。稼動中のサーバーのデータを待機系サーバーへリアルタイムにレプリケーションできるソフトで、Azure認証を得ている製品だ。WSFCと組み合わせてJP1を冗長化でき、日立製作所が公式にサポートする構成で販売実績のある構成でもあった。西野氏は、「HAソフトを変えずにクラスター構成を維持してAzureにクラウドリフトするとなると、DataKeeperが唯一の選択肢でした。」と当時を振り返る。

 DataKeeperを導入するに当たって日立製作所は、DataKeeper導入実績を持つ日立ソリューションズに実務の一部を委託した。日立ソリューションズが詳細設計書、構築手順書を作成し、実際のDataKeeper導入の作業はA社のシステム部門側の人材が担う分担になった。

insurance-company-configuration-diagram.png

【A社チャネルシステムの構成図】

サイオステクノロジーの技術支援も併せてスムーズに
HAクラスター構成を構築

 日立ソリューションズは、要件定義後の基本設計から詳細設計を担うほか、A社側で導入作業をできるようにするためのテンプレートなどを提供した。そうした中で、パラメーター設定などがわかりやすいDataKeeperの特性により、デフォルト値を顧客環境に適合するようにカスタマイズしていくだけで大きな苦労はなく手順書を作り上げることができたという。

 とは言え、問題がまったくなかったわけではない。DataKeeper側に起因する問題で、修正プログラムのパッチを当てる対策が必要になったことがあったという。その際も日立ソリューションズとサイオステクノロジーが連携して、サイオステクノロジーがパッチを速やかに提供することで速やかに対応ができた。日立ソリューションズ内にDataKeeperの検証環境を作り、ローカルの環境で問題を事前に洗い出して対応する態勢を整えていたことも、的確な手順書を作成してスムーズな本番環境の構築に一役買ったようだ。

 202210月にA社のシステムAzureへの移行が完了した。移行後、DataKeeperWSFCによるHAクラスター構成は、問題なく稼働している。Azureへのクラウドリフトに際して、システムのアーキテクチャーやHAソフトを変更することなくHAクラスター構成を実現できたことは、最善の方策だったとA社からも評価されているという。

Azureへのリフトやシフトでクラスター構成採用時の選択肢に

株式会社日立製作所
金融システム営業統括本部 金融営業第三本部 第三部
大塚 健太 氏

 A社のチャネルシステムのAzure移行で、日立製作所と日立ソリューションズはサイオステクノロジーのDataKeeperを使ったHAクラスター構成の構築で成果を収めた。ここで得たDataKeeperの知見やノウハウ、実績について、日立製作所で営業を担当する大塚健太氏は「A社の案件で導入できたことは大きな実績になります。今後、Azure案件の横展開につなげていきたいです。実際に、他の案件でAzureに移行させる取り組みの中で、DataKeeperを提案していることもあります。スキルやノウハウを蓄積できたこと、日立ソリューションズを通じてサイオステクノロジーとも連携できたことは、今後の訴求に貢献すると考えています」と語る。

株式会社日立製作所
金融第二システム事業部 金融システム第三本部 第一部
主任技師
野口 智 氏

 日立製作所でSEを務める野口智氏は、「Azureに共有ディスクの機能が当初はなかったため、当時はDataKeeperだけが選択肢でした。その後、Azureでも共有ディスクを利用できるようになってきていて、よりコストをかけずにクラスター構成を構成するときはAzureの共有ディスク機能も今後は選択肢になるでしょう。そうした中でも、今回のA社の案件でDataKeeperの導入とスムーズな移行、安定した運用を実現したことから、今後もAzureへのシステム移行や構築で冗長化機能が必要なときに、DataKeeperが選択肢になると考えています」と語った。

日立製作所様(某大手保険会社) 導入事例PDF版はこちら

株式会社 日立製作所様

業種 その他
導入環境 クラウド(Azure)
導入システム チャネルシステム
所在地
東京都千代田区丸の内一丁目6番6号
設立日
大正9年(1920年)2月1日 [創業 明治43年(1910年)]
従業員数
29,850名(2021年3月末日現在)
ホームページ
https://www.hitachi.co.jp/