BIPROGY株式会社様(某地方銀行) 導入事例

大手地銀の勘定系システムをAzureに移行、オンプレミスと同等の可用性を実現した方法とは

 大手地銀のB行は、同行が採用しているオープン勘定系システムをパブリッククラウドプラットフォーム上に移行するクラウドリフトを実施した。フルバンキングシステムのパブリッククラウド環境での実装は国内初の事例となる。

 B行のクラウドリフトを支えたのは、オープン系勘定系システム「BankVision」を開発・提供するBIPROGY(旧日本ユニシス)とパブリッククラウドプラットフォームのMicrosoft Azureを提供する日本マイクロソフトの両社だった。プロジェクトでは、オンプレミス環境で稼働していた既存の勘定系システムと、同等の可用性をクラウド上で担保することが求められた。

地域活性化に向けたスピーディーな施策の実行を目指しクラウド化

 B行は地域全体のイノベーションへの貢献を目指し、多様な施策に取り組んでいる。施策の1つが、環境や顧客の要望の変化などに柔軟に対応できるようにするための自行システムの全面クラウド化の推進である周辺システムのパブリッククラウド化に順次取り組みを進めてきた上で、今回の勘定系システムのパブリッククラウド化に至った。勘定系システムとしても、B行は先進的な取り組みを続けていて、すでにフルバンキングシステムをBIPROGYのオープン勘定系システムのBankVisionで構築していた。この稼働基盤を、オンプレミスからクラウドに移行することになったのである。

 BIPROGYでB行のクラウドリフトのプロジェクトを担当した東山武史氏は「BankVisionはWindows系のオープン勘定系システムで、B行をはじめ10行以上の地銀で採用され、フレキシブルな対応やTCO削減などに貢献してきています。オープン化をすすめる上で日本マイクロソフトと協力関係があり、BankVisionのクラウド化でも親和性が高いAzureを使うことで検討が進みました」と語る。BIPROGY、日本マイクロソフト、B行の3社で、「BankVision on Azure」の稼働を目指すことになった。

 Azureを選択した背景には、ほかにも複数の要因がからんでいる。B行では、インターネットバンキングシステムをAzure上で稼働させていて、独自に日本マイクロソフトとの関係性も構築していた。また、他の大手パブリッククラウドと異なり、Azureは準拠法が日本法、管轄裁判所が東京地方裁判所という点も、金融機関の勘定系システムをクラウドリフトする際に安心できるポイントだった。

 ただし、BankVisionをAzureに移行するためには、制約事項があった。そのうちの一つが、可用性の担保のために利用していたWSFC(Windows Server Failover Clustering)で共有ディスクを使えないということだった。BIPROGYの潮崎 央氏は「当時のAzure上ではWSFCの共有ディスクを使ったクラスター構成を採れないことが課題の一つでした。Azureだけに閉じていても解決しない課題で、クラスターシステムを入れ替えるか、サードパーティ製品を使うなどの選択が求められました」と説明する。

BIPROGY プロセスアウトソーシング本部
アドバンスドインフラサービス部
技術イノベーション推進室長 東山 武史 氏

システムの構成に手を入れず可用性を担保する方法を探る

 BIPROGYはB行に対して、BankVision on Azureをホスティングサービスとして提供する。すなわち、B行からはオンプレミス時代のBankVisionと同様の可用性を条件として求められているものの、個別のハードウエアやソフトウエアの選定はBIPROGY側に委ねられる。サービスとして求められる性能・機能を提供することが、BIPROGYの役割とも言える。

 Azure上でWSFCの共有ディスクを使ったクラスター構成が採れない課題に対して、BIPROGYではサードパーティ製品を候補に検討を進めた。評価版を取り寄せ、セミナーに参加して情報を収集する中で、BankVisionのAzureへのリフトにフィットすると考えられたのがサイオステクノロジーのデータレプリケーションソフトの「DataKeeper」だった。できるだけシステム構成に手を入れずにクラウドリフトするには、クラスターソフトをWSFCから他の製品に入れ替えるよりも、Azure上で共有ディスクに代わるレプリケーション機能を提供してくれるソフトを利用するほうが適している。「WSFCを使うことを考えると、DataKeeperが唯一の選択肢でした」(東山氏)。

 当時並行して、Azureの提供元の日本マイクロソフトに共有ディスクの課題について尋ねたところ、DataKeeperを活用した事例を紹介された。またBankVisionの運用環境を支える日立製作所のJP1でも、Azure上でのDataKeeperとの組合わせによる利用がサポートされたことも、大きな後押しとなった。こうした経緯から共有ディスクの代わりにDataKeeperを使うことで、可用性への課題に対応することになった。

 実際にAzureへの移行を進める中で、共有ディスクに代えてDataKeeperによるレプリケーションを使う際の難しさも見えてきた。システムの設計を変えずにクラスター構成を構築できるメリットは大きいが、レプリケーションソフトを使う仕組み上から共有ディスクに比べるとI/O性能に不足があるケースがあったのだ。

「BIPROGYでは、B行のプロジェクト開始前に試験環境で実機検証を行っていました。そこでDataKeeperを検証したところ、共有ディスクよりも遅くなるケースを確認しました。システムの一部では要件を満たすことができなかったため、共有ディスクを使わない別の冗長構成に置き換えることで対応しました」(潮崎氏)。勘定系システムだけに、検証フェーズで性能や機能についてしっかりと確認が取れたことがDataKeeper導入の信頼感につながったようだ。

BIPROGY プロセスアウトソーシング本部
アドバンスドインフラサービス部
技術イノベーション推進室 潮崎 央 氏

24時間365日のサポートを付帯し安定運用を継続

 DataKeeperの導入にあたり、検証フェーズでBIPROGYからサイオスには複数回にわたり評価版の貸し出しを依頼することもあり、また性能を高めるためのアドバイスを要求することもあった。これらに対してサイオスは迅速、柔軟に対応し、BIPROGYの期待に応えていった。そうした中で、サポートの対応でもサイオスは柔軟な対応を見せた。

 今回は金融機関の勘定系システムのホスティングサービスで、冗長構成の核としてDataKeeperを導入する。そのためBIPROGYの基準としては、24時間365日のサポート体制が必須要件になる。一方、DataKeeperの標準メニューには対応するサービスがなかった。東山氏は「個別対応の形で、追加の費用負担をしてサポート体制を敷いてもらいました。DataKeeperの運用後は、障害や不具合で問い合わせる事態が発生していません。そのくらいDataKeeperは安定しています」と語る。

 潮崎氏も「本番稼働前には、当然ながら本番環境でも試験をしました。アプリケーションを動かしている最中での、切り替えの試験をしても、期待通りの挙動を確認できました」と、導入までに信頼感がさらに高まっていったことを振り返る。

 BankVision on Azureによりパブリッククラウド上に実装されたB行の勘定系システムは、2021年5月にカットオーバーを迎えた。DataKeeperを使ってWSFCのクラスター構成をリフトしたシステムは、その後の本番稼働でも安定して運用を続けている。「本番稼働から運用に当たって、トラブルは発生せず、期待どおりに動いています。導入効果として特に何もお伝えすることがないほど、スムーズに稼働しています」(東山氏)。

 実際、障害発生時にWSFCによってサーバのフェイルオーバーが実行されたこともあったというが、DataKeeperの挙動は安定しており、データの整合性は担保できている。東山氏は「クラウドに移行して、稼働率などはオンプレミス時に比べると部分的に低くなることもありますが、仮にトラブルが起きてもWSFCDataKeeperの組み合わせで可用性は確保できています。『落ちても止めない』という考えに即した製品だと考えています」と語る。

BIPROGY構成図.png

今回採用したシステム構成図のイメージ

 BIPROGYは、日本ユニシスという歴史と伝統のある名称から2022年4月に改称したばかり。光が屈折・反射した時に見える光彩の七色の頭文字を組み合わせた造語の「BIPROGY」は、光を掛け合わせ、希望ある未来に導く決意を示している。固定観念にしばられず、新たな価値を提供していく新生BIPROGYの姿勢は、金融機関の勘定系システムをパブリッククラウドに実装することのリスクを取り、新たに生み出される価値を求めるB行の取り組みに重なる。DataKeeperを導入して「落ちても止めない」態勢を整え、パブリッククラウドの適用範囲を大きく広げることにつながっているのだ。

 今後、BankVisionを導入する地銀のデジタル化は、Azureやクラウドを活用することで活性化が見込める。BIPROGYは、DataKeeperを可用性担保の選択肢として用意しながら、BankVisionのクラウドリフトを推進していく考えだ。

 東山氏は、「現在までにAzureに共有ディスク機能が標準で実装され、Azureへのリフトという側面だけではDataKeeperは唯一の選択とは言えません。それでも、ゾーンをまたいでクラスターシステムで可用性を担保しようとすると、Azureの標準機能では対応できず、DataKeeperが選択肢に浮かび上がってきます」という。

 また潮崎氏も「今後はパブリッククラウドを複数組み合わせて利用するマルチクラウド化も進んでいくと思います。そうしたときに、クラウドのプラットフォームを選ばずにレプリケーションできるDataKeeperのメリットが生きてくると思います」と語る。BIPROGYが金融機関に向けて新しい価値を提供する上で、それを支える選択肢の1つとしてサイオスのDataKeeperの存在が今後も貢献していきそうだ。

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BIPROGY株式会社様

業種 情報通信業
導入環境 クラウド(Azure)
導入システム 勘定系システム
所在地
東京都江東区豊洲 1-1-1
設立日
1958年3月29日
従業員数
連結: 8,068名(2022年3月31日現在) 単体: 4,451名(2022年3月31日現在)
ホームページ
https://www.biprogy.com/